桜井の訣別(大楠公)

作詞  落合直文(1861〜1903)
作曲  奥山朝恭(1858〜1943)
青葉茂れる 桜井の 里のわたりの夕まぐれ
木(こ)の下蔭に駒とめて 世の行く末をつくづくと
忍ぶ鎧の袖の上(え)に 散るは涙かはた露か

正成涙を打ち払い 我が子正行呼び寄せて
父は兵庫に赴かん 彼方の浦にて討死せん
いましはここ迄 来(き)つれども 
とくとく帰れ 故郷へ

父上いかにのたもうも 見捨てまつりてわれ一人
いかで帰らん帰られん 此正行は年こそは
未だ若けれ諸共に 御供仕えん死出の旅

いましをここより帰さんは わが私の為ならず
己れ討死為さんには 世は尊氏の儘ならん
早く生い立ち大君に 仕えまつれよ国の為め

此一刀(ひとふり)は往(いに)し年 
君の賜いし物なるぞ
此世の別れの形見にと いましにこれを贈りてん
行けよ正行故郷へ 老いたる母の待ちまたん

共に見送り見返りて 別れを惜しむ折からに
復も降り来る五月雨の 空に聞こゆる時鳥
誰か哀と聞かざらん あわれ血に泣く其声を